2012年8月20日月曜日

五ヶ瀬中等教育学校卒業生インタビュー - 荒武里衣さん(10) - 研究のつらさと楽しさ・英語


五ヶ瀬中等教育学校2004年卒業生の荒武里衣さんへのインタビューの続きです。

前回は、卒業論文や修士論文についての話を聞いていきました。
今回は引き続き研究についての話の続きです。

前回の記事はこちら↓




■研究のつらさと楽しさ

―研究はやっぱ楽しいですか?

研究は楽しいです。ただ、年が上がっていくごとに書類が多くなります…申請書、報告書、論文もそうですし、意外とデスクワークが多くなります。それに心が折れます。

研究費とかは特に。。。。

大学の先生って大学から研究費としてもらえるお金ってそんなに多くないんです。
国や会社から研究費をもらえるようにしないと、思ったように研究できないんです。

先生に近くなればなるほど実情が見えてくるんですが、みんな必死に研究費の申請書を書いてて、「結果どうだった?」とか「あそこ受かったらしいよ」とかっていうのがリアルに見えてくるんですよ。

受かったら受かったで、それについてのちゃんとした書類を書いて、申請書と報告書とあって、そこからも大変なんです。それに加えて、学会とか調べて、学会用の要旨集を書いたりとか、論文を書いたりとか…


―それは大変そうですね…逆に楽しい時っていうのはどういう時ですか?

やっぱ結果が出た時ですね。データがバーッって出てきて、こういう結果だったんだーっていう時です。

私の性格的には、その結果が自分で分かって「へーそんなだったんだー」って思うところで十分なんです。

だけど、研究者はそれだとダメで、ちゃんと論文にして結果が出たことや、その結果のすごいところを世に知らせていかないといけないんです。

それが日本の場だったら良いんですけど、どうしても世界に出なくてはいけないんです。英語もまだできないし…


―英語は結構使うんですか?

使います。めっちゃ使います。修士論文も英語だったし、論文も書いたりとか…


―思ったよりは結構できてるんじゃないですか?

そう思うじゃないですか。確かに聞くのと読むのとは思ったよりはできる感じなんですけど、しゃべれないんですよ。練習が必要なんですけど。


―でも論文とかは書いてるわけでしょう?

それはそうですね。もちろん何度も何度も訂正されてますけど…


―それをやりきってるってところは自信持って良いんじゃないですかねー。うちの会社もインドとのやりとりとか英語を使って仕事をしてますけど、TOEICとか関係なくて、自分では「英語できない」って言ってても仕事で必要なやりとりは十分できる人もいますし。TOEICが800点とか900点とかとれててもコミュニケーションできてなければ意味ないし。

なんとなくですけどね(笑)


今回は以上です!

2012年8月13日月曜日

五ヶ瀬中等教育学校卒業生インタビュー - 荒武里衣さん(9) - 研究室の先生・就職活動



五ヶ瀬中等教育学校2004年卒業生の荒武里衣さんへのインタビューの続きです。

前回は、卒業論文や修士論文についての話を聞いていきました。
今回は引き続き研究についての話の続きです。

前回の記事はこちら↓




■研究室と先生の話
―研究室はずっと一緒なんですか?

今は、もっと遺伝子の仕事ができるように、生物の遺伝子系の研究室に移りました。

修士が終わって、そこからは、遺伝子の実験の為に機械や研究室を間借りしていた生物の先生のところに移ってやってます。

でもその先生は虫が専門の先生なので、周りは海のこととは全然違うことばかりやってて、虫ばっかりなんです。セミナーとか言っても虫の話ばっかりです。虫は嫌いなのに(笑)

普通は先生の所属している学会に行ったりするんですけど、全然系統が違うので、同じ系統の学会は自分で調べないといけなかったりします。

普通とはちょっと変わった感じです。海洋生物系の学会で、「先生は誰?」って他の研究者や教授に聞かれるとちょっと困りますね。。


―面白いですねー。元々は生物の方向性で化学に行ってて、今は化学から生物の方向性に行っているという感じなんですね。元の研究室の先生とは引き続き何かやりとりはあるんですか?

それなりに…「お誕生日おめでとう」とか(笑)

その先生は、本当に良い先生でした。「琉大にいちゃダメだよ」とか言ってて。

院でも博士でも、「東大とか行ったら?」とか、他にも京大や阪大とか、別のところに行った方が良いよって薦めてて、自分の研究室なのに「こんなダメダメな研究室にいちゃダメです」って言っちゃうような先生でした。


―その先生は何で沖縄にいるんですか?

たぶん奥さんが沖縄の人だからですかね(笑)尻に敷かれている感じで(笑)元々は大阪の人です。


―いやー、でも話を聞いてるだけでも良い先生ですね。みんな読んできてるんだから、資料を読み上げるんじゃなくて違うことをやりなさいとかっていうのは、会社の会議とかでも同じ話だし、良い指導ですねー。それをちゃんと言って指導してくれるっていうのはすごい良いと思います。

論文を書く時とかも、4年生がやった実験の内容は、いくらいい結果が出ても彼ら自身が英語の論文を書くのは難しいじゃないですか。

だから、先生が書いて出すんです。ここまでは当たり前ですけど、その先生は学生の名前を必ず一番最初に書いてくれます。

科学の分野では、論文に記載される名前の順番っていうのがすごく大事で、一番最初に名前が来る人がその論文に一番関わっているっていうことなんです。

普通だったら、4年生の実験の内容で、先生が書いた論文なら、先生の名前を一番前に書きます。でもその先生は、あなたの論文ですよって、実験した生徒の名前を一番最初に書いて論文を出してくれるんです。

論文っていうのは結構シビアで、自分の名前が一番最初に書いてある論文を何本出したかっていうのは、後々すごく大事になるんです。


―良い先生ですねー。研究室を移る時は悩んだりしなかったんですか?

それは特に無かったですね。先生も「出ろ」って言ってましたし。

今の先生は結構年配で、ちょうど私と一緒に定年なんです。なので、あまり細かいことは言われずに、「責任は私がとりますよ」みたいな感じでやらせてもらってます。

研究費も、こんな研究費がありますよっていうのを、その化学の先生や、生物の先生も教えてくれて、それを修士の子や私が書いて先生の名前で申請すると、それで取った研究費は「全部あなたが使って良いですよ」っていうことで渡してくれます。良い先生です。珍しいと思います。


■就職活動と博士課程への進学
―ですねー。そして、そこから今後はどうしていくんですか?

そうなんですよね…どうしようかなーと思ってます。

実は、修士の時に就活してたんです。それで、心が折れたんです(笑)

その当時、結構厳しい状況になってて、中小企業が最初に終わっちゃう感じでした。修士1年の10月くらいから始めて、12月の時点で中小企業はほとんど終わっちゃう感じだったんです。

私は12月くらいから始めたんですけど、ほとんど終わっちゃってて、最初のエントリーシートの段階はほぼ打ち切られてました。

後は大手か、残ってる企業しか出せなかったんですけど、いろいろ出してもどんどん落とされるじゃないですか。

いくつかは面接まで行けたものもあって、それも大手っちゃ大手のところで、カネボウとか、富士フイルムとか、花王とか。食品も出して、ヤクルトとか、明治とか、雪印とかもたぶん出して、どんどん落とされて。

それで面接とか行くと、みんなの気合いが違うんですね。怖い怖いと思って…

東京に行って、面接受けてたんですけど、言ってることは面白いんですけど、普通そんなしゃべり方しないよねって思うようなハキハキしたしゃべり方だったりして…それを見て、おおおおー…ってなって(笑)

ちょうどその就活をしてる時期に、実験の結果が出そうだったんです。さっき言ってたソフトコーラルの種と化合物のタイプがリンクする、しないっていうのが出てきた時期で、研究の方が楽しいと思って。

でも、修士卒までだったら就活に対して色々と道があるんですけど、博士までいっちゃうとなかなか卒業後の企業就職はほとんど見込めなくなっちゃうし、すっごい悩みました。

引き返すなら今だっていう感じもあって…

博士まで行ってると、自分のプライドとか、今までにやってきたことの経験とかにすごく固執しちゃう人とかいると思います。

でも、会社が欲しい人材ってやっぱ多少真っ白で、これから我が社に染まってくれるような人が良いっていうところがあると思います。

さらに、博士まで行ってると、それなりに企業側もお金も出さないといけなくなるので、結構道は狭くなります。

そういうこともいろいろ悩んだんですが、最終的には、「大丈夫!行こう!」と決めて行きました。
それで今は博士3年目です。



今回は以上です!


2012年8月6日月曜日

五ヶ瀬中等教育学校卒業生インタビュー - 荒武里衣さん(8) - 卒業論文(続き)・修士論文

五ヶ瀬中等教育学校2004年卒業生の荒武里衣さんへのインタビューの続きです。

前回は、研究室や卒業論文についての話を聞いていきました。
今回は引き続き研究についての話の続きです。

前回の記事はこちら↓



■卒業論文の話(続き)

―物質をとり出すっていうのは、具体的にはどうやるんですか?

物によって変わりますが、私がやっていた生物(海綿やソフトコーラル)では、試料を四角大に切って有機溶媒(アセトン等)、イメージで言うと除光液のような液体に入れます。

有機溶媒につけると、その生物の色々な成分が溶けてくるので、その成分がごちゃまぜのエキスを有効成分だけを取り出すように分離していきます。

最終的にオイル状だったり粉状だったりする不純物を含まない成分(化合物)を取り出します。そして、その物質がどのような化合物かを調べる為にいろいろな機械にかけます。

その機械で、水素の数、炭素の数とかっていうのを調べたり、どの水素とどの水素が近くにあるとかっていうデータが出てきて、それをパズルのように一生懸命ひもといていく感じです。

この水素が近くだから、これにつながっている炭素と酸素は近くで…みたいな。そうやって化合物を構築していくんです。

できた化合物が過去に見つけられているかどうかっていうのを、論文とかをみてガーッと探して、「ない!」ってなったら新しいものが見つかったものになるんです。

もちろん専用のデータベースとかもあるので、見逃さないように気をつけます!
結構たいへんです。。。

先生はすごくて、生のデータをパッと見た段階でおおよそがすぐに分かるんです。

普通はデータのグラフのピークの具合をいろいろな情報と照らし合わせて何の化合物か突き止めるんですけど、先生は生のデータのそのピークの状態を見ただけで、「うん、これは新しいね」とか「これはもう見つかってるよ」とか分かるんです。

その先生は海洋天然物の分野ではわりと有名な方だと思います。


■修士論文の話
―修士に入ってからはどういうことをしたんですか?

卒論って、行き当たりばったりだったから、修士で先生と何をするか相談して、どんなテーマがあるかっていうのを教えてもらいました。

最初は、100とか200とかあるサンプルを、C型肝炎に効くかっていうのを調べていきました。でも、その試験は琉大では調べられなかったので、共同研究者にサンプルを送って調べてもらうんです。

そうすると、結果が出てくるまで、「もうやることなーい」みたいな感じで暇になるんです(笑)
修士に行ったら結構頑張ろうと思ってたので、「先生、暇なんすけどー…」って言って(笑)

そしたら、私と同じ学年の子がやってた研究の続きをするかっていう話になりました。残りがちょっとだったので、それを終わらせますって言って始めたのが、化合物を抽出した生物の遺伝子を確認していく研究だったんです。

それが、今実際に私がやっている実験の元になってるんです。


―それはどういう内容なんですか?

最初の方にも言いましたが、おおまかに言うとキノコみたいなソフトコーラルと、それに含まれている化合物の関係を調べていく感じです。

最初に、キノコみたいなやつ、ソフトコーラルが化合物を持ってるって言ってたじゃないですか。ソフトコーラルは1つの個体に、だいたい1種類の化合物がたくさん含まれてることがわかっているんです。

それも、必ず同じ物質じゃなくて、個体によって結構いろんな化合物の種類がとれます。

その化合物の種類とソフトコーラルの種のパターンはまったく調べられてなかったんです。どの種にどの化合物が入っているのか。。みたいな。

何となく取ってきて今回はAが出たねー、次はBが出たねーという感じで。化合物の違い(種類)っていうのは、炭素骨格は一緒で付属のものが違うっていう感じで同じ系統の類似化合物がいくつか出てる感じでした。

それで、化合物のパターンは、もしかしたら、ソフトコーラルの種によって違うかもしれないって言うことになって調べようって話になりました。

実はその話って、5-6年前にも一回先生がやってたんですけど、その時は化合物のタイプとソフトコーラルの種が一致しなかったんです。

同じソフトコーラルの種でも違う化合物タイプがたくさん見つかったりして、、、

結局、種と化合物は関係ないっていう結論になってたんですけど、その時に種分類をした方法が形態による分類だったんです。

ソフトコーラルの見た目ってほとんど一緒で、パッと見ても何が何だか分かんないんです。ちょっと難しくなるんですけど、見た目で分かるのって種の1つ上の属までなんです。

その下の細かい分類は、一回細胞を溶かして、中に持ってる小さい骨の形を見てはじめて種が分かるんです。

その小さな骨を使ってソフトコーラルの種を決定して、化合物と照らしあわせたときは、さっきも言ったように化合物との関係性がわかりませんでした。

でも、ちょうどその当時の1年前か2年前にソフトコーラルの遺伝子解析が行われて、種分類がちょっと変わったかもっていう話があったんです。

それで、遺伝子解析と化合物をリンクさせようっていうことで、遺伝子の仕事をするようになったんです。

結果として、ソフトコーラルの系統樹と化合物が大まかにリンクしました。実は、これは結構珍しい結果だったんです。

例えは、フグには毒がありますよね?

フグ毒っていうのは、フグが食べてる藻が作っていて、その藻が蓄積されてフグが毒を持つようになるんです。

実は、こんな話は結構一般的なんです。海洋生物の中で化合物が見つかったら、実際に作っているのは、その海洋生物に共生している小さなバクテリアでした、とか、藻でしたっていう。

ソフトコーラルはサンゴだから、共生している藻がいます。
その藻が光合成をして、サンゴはそこからエネルギーをもらっているんです。
サンゴも一般的に考えるとそうだよねっていう話になります。

だから、私はこの実験の時、サンゴの遺伝子と藻の遺伝子の両方やったんです。
そして各個体からとれてきた化合物と、サンゴ・藻の両方の遺伝子を比べてみました。

その結果、藻ではリンクしなくて、サンゴだけでリンクしたんです。
だから、これは珍しいな、と。

それで、最初は沖縄本島だけで調べてたんですけど、場所を変えて石垣とかでも当てはまるのか調べました。
そうすると、またちょっと違う結果が出てきて。

そんなんだったら実際に作ってる遺伝子を特定して、どっちの遺伝子なのかを特定した方が速いっていうことになって、そうやって広がってくテーマを博士で今やってるっていう感じですね。



今回は以上です!